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ソーシャル・インパクト・ボンド

【シティマーケティングシフト Vol.4】社会の課題を民間の投資で解決 – 社会インパクト債権/ソーシャル・インパクト・ボンド

最近発表された2015年の日本の国勢調査の速報値によると、東京圏では転入超過になっているものの、そのほかの地域では転出超過になっており、また初めて総人口が減少したようだ。
この傾向が続けば、東京圏も近い将来人口減少の可能性があり、結果的に国内各都市とも公共予算がひっ迫され強い財政圧力を受けることにつながっていくだろう。

そのため、これからは民間資金をいかに公共にも活用していくかという視点が必要になる。
その一つの取り組みとして社会インパクト債権(ソーシャル・インパクト・ボンド、以下SIB)がある。これは2010年に英国でスタートしたプログラムだ。

ソーシャルインパクトボンドの仕組み

仕組みとしては行政が解決したい社会課題を設定し、民間事業者がその課題を解決するプログラムを作る。
そして、必要な資金を民間投資家から調達し、事業者が実際にそのプログラムを運営していく(上図1参照)。
その結果、初期に設定した目標を達成し、成果として生まれた行政のコスト削減分から必要経費を除いた分を、民間投資家に利益として還元するというものだ。

なかなかイメージしづらいと思うので、英国で実際にあったホームレスの社会復帰事業のケースで説明しよう。
英国ではホームレスの医療費やシェルターの運用やカウンセリングなどで、1人あたり年間670万円、トータルで324億円のコストがかかっていた。
ホームレスを1人社会復帰させると670万円分行政コストが浮く。

そこでホームレスの社会復帰プログラムを企画し、民間から5億円調達し、NPOにそのプログラムの運用を委託する。
800人のホームレスの社会復帰を目標にしており、目標が達成されると約54億円もの行政コストが削減され、民間投資家には8.5億円が還元される。

このSIBは英国のほか、アメリカやオーストラリアなどで20件以上実績があり、高齢者医療 就労支援、児童養護など対象も幅広く利用されている。
SIBの特徴は、いままで民間投資の対象になっていなかった社会的事業が投資対象になっているというところで、ロックフェラー財団とJPモルガンのレポートによれば、社会的な投資市場はこれから大きく成長すると予測されている。

当然、この世界的な潮流の中、日本の各都市でもSIBの導入が検討されており、昨年横須賀市で特別養子縁組を促進する事業がスタートした。
これは児童養護施設でなく里親との特別養子縁組を促進するもので、一組成立すると施設にかかる882万円の行政コストが削減される。
この背景には児童養護施設退所後の自立の難しさや愛着障害といった社会的課題がある。
特にいまの日本には高齢者介護や子供の貧困と就学支援など社会的投資が必要とされる課題はたくさんある。

ぜひともこの仕組みを活用してもらいたい。


小林 司

小林 司 氏

1970年 埼玉県生まれ。
株式会社電通、楽天株式会社を経て、現在一般社団法人埼玉都市政策研究所代表理事。
楽天時代はインターネットマーケティング分野の執行役員や楽天イーグルスの立ち上げを担当。
現在はインターネット地域オピニオンメディア「クオリティ埼玉」主筆を務めるとともに、都市戦略、地域活性化のシンクタンクを主宰。